【2.5次元舞台へようこそ ミュージカル『テニスの王子様』から『刀剣乱舞』へ】を読んで

自粛期間に持て余した時間のほとんどを配信や円盤再生に費やしていたのですが、色々なクラファンが立ち上がる中で改めてこのジャンル・業界のことが知りたいなと思い読んだのがこの本。
(あ、これは収益構造とかが書かれている本ではないです。)

 

www.seikaisha.co.jp

 

2.5次元舞台については、テニミュ1st不動峰戦の映像を友人が貸してくれた時から見知っていて、そこから「2.5次元」と呼ばれる舞台を初めて観に行ったのが「ミュージカル 黒執事」でした。

詳しくはこちらの回顧録をご参照ください。

 

hitoiro.hatenablog.com

 
てなわけで早速この本を読んだのですが、これまでの「2.5次元ジャンル」を体系的に分かりやすくまとめられていて、入門書としてはぴったりだなと思いました。
特定ジャンルしか観に行かない人には2.5次元ジャンルを代表するような作品を横断的に勉強できるのもグッドポイント。

そして「聞いたことはあるけれどまだ踏み出せていない」という人に対しては、2.5次元ジャンルの作品にどういった魅力や特長があるのか、最初に観るのにおすすめあ作品まで記載されているので導入にちょうど良いと思います。

さらにこの本には作品作りに携わるプロデューサー、演出家、役者などの過去のインタビューから抜粋した内容も盛り込まれており、作り手側から見た2.5次元ジャンルについても知ることが出来ます。

(ちなみに私は過去買い逃していた「ユリイカ」や「美術手帖」の2.5次元特集も、この本をきっかけに買いました。)

 

個人的に刀ミュ中国公演の遠征記が非常に興味深く…(笑)
海外遠征をしたことがない人間なので、その行動力の凄さというか、オタク同士の情報網の強さというか…同じ趣味を持つ者たちの結束ってすごく心強いんだなと感心しながら読んでしまいました。

 

そして著者であるおーちようこさんが「おわりに」の項目で以下のように述べています。

新しい観客を劇場に呼び、経済的貢献を生み、才能を見い出しながら、よりいっそう拡大、研鑽されていく――2.5次元舞台は、変化し続ける「実験場」だと思います。

 

自分はそこまでたくさんの2.5次元作品を観たことがあるわけではないのですが、なんとなくこの「実験場」という感覚に共感しました。

 

さて、以下は私個人の所感です。ということを前提に読んでください。

 

2.5次元ジャンルは他の演劇ジャンルからすると「なんかよく分かんないけど若い人がこぞって観に行っているやつ」みたいな印象を持っている方もいるかと思います。たしかに作品数が多ければ多いほどピンもキリもあると思うんです(これはもちろん2.5次元に限らずですが…)。

役者も若手が中心になるので成長過程を見守る部分もなきにしもあらずなのですが、それでも今まで演劇を観に行かなかった、劇場に行く機会がなかった人をこれだけ惹きつけ大きなコンテンツとなってきたことは、演劇業界にとってもかなりインパクトのあることだと思っています。

 

ちなみに2.5次元ジャンルに関してはぴあ総研が2018年に市場調査をしておりまして…

corporate.pia.jp

公表されているデータをもとに、素人ながらこんなグラフを作ってみました。
スペースの都合上すべてを書くことが出来なかったのですが、人気シリーズ作品の初演上演年もグラフの中に入れて「あー、あの頃かー」というのが分かりやすいようにしてみましたよ!

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上演されるタイトル数も年々増えているのですが、とにかく伸び方がすごい。

まぁ、制作側が「需要あり」と見込んで次から次へと乱立させてるという捉え方が出来なくもないけども…。

※ちなみにこの調査における2.5次元ジャンルには宝塚歌劇新橋演舞場大阪松竹座といった大劇場で上演された作品も含まれています。

 

最近では上演作品数が増え、連日満員御礼の人気作品については大千秋楽にライブ配信(ライブビューイング)を導入するといった動きも出てきています。

業界のことは何も知らない私の個人的な考えなのですが、この「配信(ライブビューイング)」というのが2.5次元ジャンルの発展にプラスの影響を与えているのでは?と。

チケット代が映画に比べてかなり高い演劇業界ですが、若い世代を中心に人気がある2.5次元ジャンルにおいては、現地よりも比較的安価で、お試し感覚に近い状態で見ることが出来る環境があることが大きいのでは?と考えています。
(あと遠方に住んでいる人も東京や大阪といった大都市圏に出なくても映画館で観る機会を得られるのも大きいかな?)

映像化されない演劇作品も数多くある中で、2.5次元ジャンルの作品は「映像配信」や「DVD化」に比較的積極的な印象。無料配信や定額サイトでの配信等、気軽に触れられることで「観劇に対する間口を広げた」のではないかと思っています。
(そして映像化されていると既存ファンも新規ファンに対して「布教」しやすい。これがとにかく大きい。知人との貸し借りもしやすい。)

余談ですが、その点で言うとK-POPがフルMVをYouTubeで公開、音楽番組の映像も番組の公式アカウントが公開することで世界規模での人気を掴んだのとなんか構造的に近しいものを感じます。

※だから無料でどんどん配信していきましょうって話でもないですが。

チケット代の捻出が難しい若年層が画面で観ていたものに興味を持って、「次は劇場で生のお芝居を観てみたい」と思えるような、未来のファンをつくるきっかけづくりが上手くいっているパターンが、この2.5次元ジャンルにおける市場規模の拡大なのではないだろうか…と思っています。

 

動画配信といえばテニミュニコニコ動画で話題になったことについて。これは当時の状況を含め賛否が分かれるかと思いますが、プロデューサー片岡さんのこんなインタビューがあります。
「(無断転載について)公式はどう思っているんだろう」と思っていたので、この話は大変貴重でした。(※決して無断転載を推奨するという話ではない)

www.j-cast.com

 

ちなみに「ライブビューイングっていつ頃から導入しているんだろう?」と思ったらこんな記事がありました。

tvfan.kyodo.co.jp

以下、記事の一部を抜き出します。

そもそもライブ・ビューイングは、映画館のデジタル化に伴って広がったマーケットです。それ以前は、フィルムで撮影した作品しか上映できませんでしたが、デジタルプロジェクターやサーバーが普及したこと、SDからHDのハイビジョンに変わったことで、いわゆるビデオで撮影した映像が上映できるようになりました。それが、ライブ・ビューイングがスタートしたきっかけでもあります。

2009年のミュージカル『テニスの王子様』(以下、テニミュ)が中継を行ったのが最初だと思います。テニミュが中継を続けたことで2.5Dファンの方にも認知されるようになりました。

 

これを読むと、技術的に可能になったタイミングと2.5次元舞台の人気がタイミングよく合致した結果なのかもしれませんね。そしてこのインタビューの中にも記載されているとおり「2次元の世界で楽しめるものが原作となっているので、映像で見る違和感が少ない」というのが、2.5次元ジャンルがライブビューイングを積極的に取り入れることができる理由の1つなのかもしれません。

「じゃあ2.5次元以外の作品はライブビューイングに不向きなのか」と言われると、私はそうでもないと思うのですが、これはおそらく自分が映像で観ることに慣れすぎているせいもあるかもしれません。

 

 

そしてこれに少し関連して、実は先日このようなことがSNS上でありました。

ddnavi.com

これはミュージカル刀剣乱舞(刀ミュ)の過去上演作品を10日間毎日1作品を無料で配信するといった公式企画で初めて刀ミュを観た艦これファンのお兄さん・お姉さんが、あれよあれよと言う間に刀ミュの面白さにハマり、刀剣乱舞ファンからおすすめされた劇場版作品を有志で視聴することに。

それがまさかのファンによる「非公式同時上映会」となり、関連ハッシュタグTwitterの日本トレンド1位になった…という、まぁ「こんなことある!?」という展開でした。

実は記事になったあとにも続きがあり、今度は舞台 刀剣乱舞(刀ステ)が7日間毎日1作品を無料配信する企画を実施。前述の艦これファンのお兄さん・お姉さんも引き続き鑑賞をして、公式企画が終了した8日目も配信対象外だった最新作を自主的に購入し、「非公式同時上映会」を行うという流れになりました。

もちろん艦これファンの方だけでなく、これまで刀ミュ・刀ステを観たことがなかった人たちも視聴していたのか、関連DVDも品切れするという事態に…。

 

これが2.5次元の映像パッケージ化の強みだと思うんですよね。
公演が終わったあとも収益に繋げられる手段があること、そして無料配信で次回作を現地で観たいなと思うファンを増やすこと。

もちろん原作ありきのジャンルなので、「原作自体の人気」や「そもそも原作に興味があるかどうか」というところも大きいとは思います。

役者に興味があるタイプの人間であれば原作を知らなくてもキャストで観る/観ないの判断をすることもあるでしょう。私がまさにそのタイプです。

ただ、2.5次元については「原作を知っている前提」で物語が展開されていくこともあるし、観る側としても「原作の内容知らないけどついていけるのかな?」といった不安があると思うんです。そういった意味では原作を知らないと「観てみよう」のハードルは他の作品よりも若干高めかもしれないなと思います。

ゆえに既存の原作ファンやマンガ・アニメに馴染みのある層を2.5次元ジャンルに引き込むベクトルは作りやすそうですが、キャストのオタク以外の既存の演劇ファンを2.5次元に持ってくるという方向には矢印が向きづらいジャンルでもあるかもしれません。

 

おそらく「2.5次元ジャンルの壁を取っ払っていきたい」という関係者の言葉には色んなニュアンスが込められているものと思っているのですが、グランドミュージカルのような大きな演目として世間に受け入れられるようになる時には、きっと「原作は知らないけど面白そうだから観てみたいな」という動きが出来ている状態なんだろうな、と素人ながら思うのでした!

 

そういう意味では新しいことをたくさんやってきた2.5次元ジャンルは、まだまだ新しいことが生まれてくるのではないかとワクワクしています。
おーちようこさんが言うところの「実験場」ってやつですね。

巷で噂の「シアターコンプレックス」も実際にローンチした時にどんなコンテンツで、どういった展開がされるのかはまだ分かりませんが、新しい風を吹かせてくれるのかなとちょっと期待している自分もいます。色々悩んでクラファンはしなかったけどなー!!!!

 

と、まぁ私は「ビジネスモデル」に関する内容を中心に書いたわけですが、2.5次元ジャンルがこれだけ魅力的なのはキャラクターの再現だったり、演出だったり、色んな要素があるかと思います。

本書ではそういった「役者がどうやってキャラクターに近づけているのか」「世界観を表現するために試行錯誤された演出」という部分もしっかり書かれているので、気になる方はお手にとってはいかがでしょうか!

 

おわり!

 

感想などはこちらにでもどうぞ

marshmallow-qa.com